釣りエッセイ 1 釣りをしなくなった男からの挨拶状
釣りをしなくなった男からの挨拶状
私は今ある事情から釣りから遠ざかっている。釣りから遠ざかっているのに新聞の釣りのエッセイを書くというアンビバレンツに苦しんでいる。
釣りに熱狂的に恋をしていたのは20代中盤から40代の最初まで。本格的に釣りをしなくなり15年ほどになる。
遠ざかっているとはいえ年に一度くらいはバンブーロッドにリールをつけてガイドにラインを通して川辺に立つ。供給が止まり減ってフライボッス。何番のラインを巻いたか忘れたリール。フローティングのつもりが沈むラインをティップをで持ち上げ浮かせながら浮力のあやしいドライフライで遊ぶ。
年一の釣りは弔いのようでもある。親しかった二人の釣り仲間が鬼籍に入ったこともあって、その日は一人でなるべく人のいない川を選び釣果に関係なく朝の清冽な空気と川霧の立ちこめる幽玄とした雰囲気の中、あの特有の期待の感のある朝を楽しむ。一匹釣ると川岸に座り川や木々の向こうに見える空を眺める。せせらぎと鳥の声、木の上の方が風に揺られ白い雲が流れてゆく青い空。
今の私に書けるのは過去の話しかない。何回続けられるかわからないが私の中で風化して行くものたちの中で残しておきたい事だけを書いてみたいと思う。私の体験した事や関わった人について釣り好きのみなさんの興味を惹く事がひとつでもあれば苦しみながら書く私のせめてもの救い。よろしくお願いします。
2016年2月 森川
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